本建物は、Jリーグ所属のサッカークラブ『ザスパ群馬』の活動拠点として、また、開かれた地域コミュニティの場として、運動やサッカーにとどまらず、健康増進の基点となる施設を目指して企画されました。赤城山の真南の緩やかな麓にあることにより、大屋根は赤城山の稜線と重なるデザインが採用されています。
構造計画概要
建物は利用形態より、大きく東西2つのエリアで分かれており、中央の接続エリアと東西に伸びる大屋根で一つの建物となっています。南立面には大きなガラス面があり、グラウンドが一望できる設計となっており、デザインと機能がうまく融合した建物となっています。
基本計画の段階より建設費の高騰が始まり、コスト管理が重視される中で、デザイン性を確保した上でいかに施工性、経済性、構造合理性を両立させるかが課題となりました。そのため屋根形状はモジュールを意識して計画が進められました。具体的には1階部分の柱割りスパンでもある6.3m角の正方形モジュールに屋根面の三角形モジュールを重ね、おのおのの頂点を極力共有させていく方針としました。正方形や三角形の頂点や交点をWorkpointとし、これを鉄骨天端の3次元座標としました。X方向はブレース構造、Y方向はH柱強軸としたラーメン構造とし、屋根面は、傾斜が複雑なX方向大梁は柱頭でピン接合、傾斜が比較的単純なY方向大梁は剛接合として、各方向の剛性バランスの調整と共に仕口部の単純化を図りました。本建物の構造は電算プログラム入力前の構造計画、座標整理、データ準備が要となる建物でした。屋根物形状のベースとなる部材座標は構造先行で確定したことで意匠や設備との座標共有も重要でした。
『SS7』利用方法
X、Y方向とも6.3mスパンの1/2となる3.15mスパンで通りスパンを設け、あらかじめ整理したWorkpointの資料を基に、平面的な節点の共有指定により、建物の平面形状を反映し、次に屋根面レベルの個々の節点に傾斜状況に応じて整理された高さ情報を入力して建物の立面形状を反映し、実状に整合した解析モデルを完成させました。複雑な形態ながら、応力、剛性を把握・調整し、バランスの良い構造設計を実現することができました。また作成した『SS7』の3Dデータは解析以外での活用につなげることができました。
一つは設計段階でのRevitへの活用ですが、『SS7』のデータをSTB形式に変換することでRevitデータを作成し、設計チーム内で共有することができました。
また光学式3Dプリンターでの骨組の出力への活用も行いました。同じくAutoDesk社の3ds Maxを用いて、STL形式に変換し3Dプリンター用データを作成しました。この際、RCの基礎梁は矩形断面ですので出力に問題はないですが、上部鉄骨部材はH形断面であるため、フランジ、ウェブもその厚さどおりで出力処理されるため、出力がうまくいきません。そこで、あらかじめRevit上で、H形断面のフランジ幅と梁せいを包絡した矩形断面に置き換えたデータを準備しました。出力モデルでは、鉛直ブレースが有りのタイプ、無しのタイプを作成し、実際に模型を手に取って変形させるなどして、構造形式の違いによる建物の硬さの違いを体感してみるなど、設計関係者間のコミュニケーションツールとしても大変役立ちました。
工事段階でのRevitの活用としては、Revitモデルをもとにウォークスルー動画を作成し、ゼネコンや鉄骨工事会社に対して構造上、施工上のポイントについて説明することができました。なお『SS7』ではモデル化していない鉄骨階段や、増し打ち、床段差なども個別に入力し、完成形に近い躯体のイメージを工事関係者間で共有することができました。
確認審査時の指摘事項や対処方法
屋根面は、全体を非剛床として水平ブレースを配置し、地震時および保有水平耐力時に発生する軸力を用いて、各部材の断面検定を行いました。一方で2階床スラブについては剛床仮定としており、床に発生する移行せん断力は事前に小さいことは確認済みでしたので地震時のみ検討していましたが、こちらも保有水平耐力時の検討を追加するよう指摘されました。地震時と保有水平耐力時のせん断力の比率より、移行せん断力を算出し、短期許容応力度以内に十分収まっていることを説明しました。いずれにせよ、『SS7』を利用することで実状に整合する解析モデルで構造設計を実施できていたことも手伝ってか、構造設計内容に影響を及ぼすような指摘事項はありませんでした。